アルバム「diary」について

htnkmst2011-08-25

久々にアルバムを作りました。しかも、完全に個人的な勝手なプロジェクト。
8月20日iTunes Music StoreAmazonからリリースされました。

iTunesへはこちらからリンクできます↓
http://itunes.apple.com/jp/artist/id367083899

あえて何の制約もコンセプトも設けずアルバムタイトルの「diary」のとおり、日々合間を見ては綴ってきた音で表現しようと、これはひとつめの理由。そしてもうひとつ理由がありました。

3.11以降、個人的に価値観・人生観がまるで変わってしまった(皆さんもそうだと思いますが)。
その後たたみかけるように4月に妻を病気で亡くして、唐突に「ひとり」になってしまった。


心境の変化どころじゃなくて、心の中がぐちゃぐちゃになった。
っていう表現でも足りないくらい。

かつて数年前に母が亡くなり、自分には兄弟もいないし、子供もいない。
今現在自分にとっての肉親は父親だけ。
36歳にして「晩年ってこんな感じなのだろうか」とか。「全く人生とはなんて不条理なんだ」とか。とにかく色んな感情がクロスフェードして、起きていても寝ていても魘される。とても人様にはお見せできない状態が少しのあいだ続きました。

でも生きなくちゃいけないから、音楽活動を心の主軸にとにかくスタッフや友人、恩人、そして心底信頼している仕事仲間の皆さん、限られた時間の中で色んな人に会いにいった(まだまだお会いできていない人もたくさんいます)。そうしている内にさっき書いていた「自分がひとり」というのは大きな的外れで、そして大きな勘違いだったとすぐに気がついた。

そうだ、別に自分は突出した不幸者なんかではない。

5月のGWの突入前には通常の活動スタイルを再開して、とにかく仕事に集中した。頭の中を現在とその先の未来を見据える思考回路に書き換えた。


そうだ止まっていたアルバム制作もやろう、仕事が詰まっているけど合間をぬえばいけるんじゃないか。新しい表現とか良い音楽とかそんな定義付けはどうでもいいからとにかく頭と指を動かそう。

こんな風に乱暴に書くと買って下さる方に大変失礼になってしまうけれど、7月になって自分自身を奮い立たせるような、ある種の「勢い」だけで作ってしまったのがアルバム「diary」なのです。実際には構想としてはこの1年でかなりの曲を作り貯めていたのですが制作を思い立ってから聞き直してその9割が全く気にいらず、春の一連の出来事から今現在をリアルタイムで表現し直した、正に日記のようなアルバムです。


01. Box
音響的に「0デシベル」を超えると音が破綻するという法則の中で、その額縁の範囲内で好きな音色で飽和させてみようというのがそもそものアイディア。なのでミニマルという意識よりも音響的、もしくは幾何学的なイメージ。それぞれのフレーズは単純な繰り返しではなく少しずつかたちを変えていきます。


02. Exit
自分にとってはめずらしい曲。仕事でこういう曲を作ることはあっても自分では積極的にやることはなかったので、あえてやってみようと。変に時代感を連想させる派手な音色やフレーズは極力避け、とにかくビートに包まれる感覚だけを。僕がこの手の音楽のいちばん好きなところは「音に塗れられる」こと。


03. Hold Balance
あえて「Exit」と同じBPM(テンポ)にしています。「Exit」がビートそのものを発想の主軸としているならば、こちらは偶然出来てしまったシンセの音群を主軸にして、その上にビートに乗せたという考え方。


04. Possibility
最後までリズムで悩んだ曲。ベース音は基本的に重低音のサイン波。低音の存在だけを感じたいという想いからこの音になりました。
本当はドラムだけでも生でやりたかったのですが。


05. April Shower
2011年4月の自分の心境がテーマ。仮タイトルはレクイエムでしたが、既に月日もある程度経っているので変えました。弦楽のスタイルをとっていますが、あくまで音の集合体が変化していくというグラフィカルなイメージ。ひとつのモチーフを変奏させながら進行していきます。


06. ice cream
既に半年前に作っていたデモの中で唯一の生き残り。何となく2台のピアノをイメージしています。
ミニマルといえばミニマルですが、演奏そのものは即興演奏が主なので実はあまり何も考えていません。
唯一気にしているのは鍵盤を弾く強弱なので、音響体のひとつとしてピアノを捉えています。


07. handwriting
シンセでつくったフレーズをとことんいじり倒した曲。聴こえている音はぜんぶひとつの音色から出来ています。時々やってくる低音シンセも全部同じ波形から。


08. empty page
音量もあえて小さくしているし、音響的にもほとんどモノラルに近い。
何か夏休みの夕方に学校の体育館の片隅にあるピアノでこっそり演奏してみたようなイメージ。メロディーは決まったものが数小節あるのですが、途中で音符の順番やタイミングを意図的に入れ替えてみたり。


09. sky
最初にピアノを書き、チェロ、コントラバスヴィオラ、ヴァイオリンの順に積み重ねています。和声はほとんど気にしていなくて旋法に近い。時々うっすらと聴こえるノイズはかつて東京で録った雑踏、そして浜頓別(北海道にある僕の故郷)で録った川の音をほんの少しだけ振りかけています。


10. July
そういえば実はこれまで「夏」をテーマに曲を作ったことがない。いやきっとたぶんむいていないからやっていない。いざやってみたら「スナフキン」っぽいというか、「さすらい」というか。結局は過ぎていこうとする夏を横目に次の街を目指すぜ的な曲になってしまいました。


以上あまり出来の良くない楽曲解説というわけで、普段は敬遠しすぎてあまりやらない「4つ打ち」もやっているし、普通だったら生演奏でできる環境が整うまで手をつけない性格なのに弦楽曲をあえてコンピュータでやってしまったり。でも自分の命が生かされている間に作りたいものを作った方がいいに決まっている。
そんな心境の変化を受け止めながらひとり仕事場で音を彫っていく。あらゆる雑念と決別し、自分の頭と目の前の鍵盤と格闘する日々。忘れかけていた自己表現という感覚。


話しはそれますが、今まで自分が味わった経験や仕事。地図もなく、まるでジェットコースターのような人生。これまでのプロとしての16年というキャリアの中で得たものは、かつて16年前に思い描いていたものより明らかに、遥かに大きい。
こんな環境に身を置けたという事実は決してお金では買えないし、決してひとりでは味わえない。
だからこそ「いきる=つくる」という自分の根本の哲学に希望をもって何とか立っていられる。
そして、一時期生きる気力さえすっかり失った自分を奮い立たせてくれたのは、他ならぬ「音楽」と「友人」たちでした。
だからこそこうやって自分の作品だって作っていられる。
泣いても、わめいても、叫んでも、生きている限り必ず誰にでも明日は来る。そして誰にでもいつかは死がやってくる。
だから最後の最期まで勝手に楽しんでいたい。目一杯生きていたい。そして心から皆と笑っていたい。


話しはそれましたが「こんな音楽を作りたかった」とか「こんな事が出来るんです」とか「この技法おもしろいだろー」という気は微塵もなく、まるで子供のように、とにかく何かを作りたかった。幼稚を承知で、ただの欲であり閃きです。でも音楽って結局は閃きの瞬間の積み重ねじゃないでしょうか。もちろん色んな思想や哲学はありますけど、少なくとも4月以降の僕はそう思っています。

しかしまぁ何ともまとまりのない文章。ごめんなさい。

気が向いたらでいいので、ご興味のある方はぜひ聞いてやって下さい。iTunesAmazonからダウンロードできます。

聴いて下さった方には心からの感謝を!!

畑中正人
http://www.hatanakamasato.net/