壁、ときどき音楽。
音楽を作る事を生業にしている自分にとって気分を変えるために音楽を聴くということは、あまりない。
どちらかというと本を読んだり、映画を見たり、外へ出て景色や建築を眺めたり。
もしくはおいしいものを食べてみるとか。
それでも壁にぶちあたり、創作意欲が弱まりそうになると聴くアルバムや曲はいくつもある。
その中でもPeter Gabrielの『So』はまだ音楽を学びはじめた頃の気持ちに還らせてくれる。
このアルバムは1986年リリース。既に24年もの月日が経っている。
血反吐を吐くようなヴォーカルと、トニー・レヴィンの地を這うようなベースが印象的な「Red Rain」
緻密なリズムにメロディーとハーモニーが地層的に絡み合う「Mercy Street」
ケイト・ブッシュとのデュエットがせつなく響く「Don't Give Up」
砂漠の先に緑色の地平線が見えてきそうな歌声とリズム、美しいエレクトリックピアノとシンセパッドが印象的な「In Your Eyes」など。
作詞、作曲、編曲、ミュージシャン、そしてエンジニアリングも全てが完璧なバランス。
Peter Gabrielの高い知性と音への欲望が見事にそして克明に表現されている。
若い世代がいまこのアルバムを聞いてもそれほど古いとは感じないだろう。
まだ「アルバム」という概念がしっかりと生きていた時代に、全世界でヒットしたこのアルバムを正座するくらいの気持ちで聴く時間は決して無駄にはならない。
今ではiTunesでも簡単に手に入る。
CDを持っているのに、気がついたらリマスター版もダウンロード購入していた。